ジェイテクトSTINGS VS パナソニックパンサーズ

一人ひとりが役割を果たして、ジェイテクトSTINGSのバレーを完遂。シーズンを通して活躍した西田がMVPに選ばれた!

 歴史が動いた。17人の選手と、彼らを支えるスタッフの手によって、重い扉がついに開かれたのだ。2020年2月29日、ジェイテクトSTINGSが日本一に輝いた。日本のバレー界に新しい風が吹き込んだ。

 セミファイナルを勝ち抜き、迎えたパナソニックパンサーズとのファイナル。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、無観客での試合となった。
 舞台は高崎アリーナ。試合開始を告げるホイッスルが高らかに鳴り響く。ジェイテクトSTINGSは西田のスパイクで先制した。カジースキの強打も爆発。さらに西田が1本目のサーブでエースを決めた。なおも西田のスパイクでサイドアウトを切っていった。
 しかし、6−5から6連続失点。サーブレシーブの乱れが響いた。西田がレフトから放ったスパイクも相手のブロックにつかまった。ビハインドは5点。実力が拮抗したチーム同士の試合では、決して簡単ではない数字だ。
 パナソニックは執拗にカジースキにサーブを集めてくる。我慢の時間が続いた。饒の速攻で粘り強く得点を重ねた。西田のサーブも決まった。しかし、5点のビハインドのまま2回目のテクニカルタイムアウト。セッターの中根は巧みにトスを散らし、藤中のスパイクなどで着実に加点した。
 しかし、カジースキが2本連続でサーブレシーブを失敗した。開いた点差は8点。袴谷をリリーフサーバーで投入したが連続得点にはつながらず、17−25の大差で第1セットを失った。

 第2セットは、カジースキの球足の長いスパイクでペースをつかんだ。饒のスパイクはアウトになったが、プレーの内容は悪くない。その後もカジースキが高い打点から緩急をつけたスパイクを相手コートに落とした。
 西田もフル回転で活躍。饒がオーバーハンドで返したボールを自ら決めてサイドアウトを切った。この試合、スタメン出場を果たした金丸がブロックでプレッシャーをかけた。粘り強くボールをつなぎ、西田のバックアタックでブレイクポイントを奪う。
 圧巻は9―8からだ。カジースキの強烈なスパイクでサイドアウト。金丸がフローターサーブで相手を揺さぶった。カジースキが難しいトスを決めてラリーを制した。ここでパナソニックは1回目のタイムアウト。饒がブロックを決めるなど、得意とするサーブ&ブロックが機能した。その後もサイドにトスを集めたジェイテクトSTINGSが、2回目のテクニカルタイムアウトを4点のリードで制した。
 西田が吠えた。3枚ブロックの上から強打をたたき込んだ。金丸のBクイックでサイドアウトを切った。藤中もフェイントを駆使して、相手コートにうまくボールを落とした。
 4連続失点で2点差に詰められたがチームに焦りはなかった。カジースキがストレートに、西田はコートの中央に強打を打ち込んだ。ワンポイントブロッカーとして伏見を投入した。得点にはならなかったが、西田がコーナーいっぱいに決めてセットポイント。最後は西田のスパイクで25−22、セットカウントを1−1のタイに戻した。

 第3セットも拮抗した展開が続く。今シーズン、パナソニックとの試合は勝っても負けても3セットで決着がついていた。第2セットの勝因は、カジースキの覚醒だ。主将の本間が言う。
「カジースキ選手が第1セットを取られたときに『俺のミスだから気にするな』と言ってくれた。第2セット以降のカジースキ選手の修正力はすごいと思いました」
 実力は伯仲していた。一時は6点のビハインドを喫した。8−14。カジースキのブロックで流れを変えた。西田のサーブで相手のサーブレシーブを崩し、カジースキのダイレクトスパイクでブレイク。リベロ本間のジャンプトスを西田が決めた。饒が相手ブロックの間をかいくぐって13−15。2点差に迫った。
 ここからは互いに1点ずつを取り合った。ジェイテクトSTINGSは西田、藤中が決めて得点を重ねる。カジースキのスパイクはアウトと判定されたが、チャレンジが成功して得点が認められた。
 さらにリリーフで投入された袴谷がサービスエースを決めた。大きな仕事を成し遂げた。饒がブロックを決めてついに同点に追いついた。ジェイテクトSTINGSが凄まじい粘りを見せた。20−20でサーブが回ってきたのは、千両役者の西田だ。パナソニックのクビアクを崩してエース。さらにカジースキのブロックで22−20とリードを広げた。
 カジースキのサービスエースで24−21とセットポイント。西田が冷静に強打をたたき込んで、ジェイテクトSTINGSが25−22でこのセットを奪った。

 あと1セット。しかし、第4セットはパナソニックに奪われる。特筆すべきは終盤のせめぎ合いだ。セッターの中根は徹底して西田にトスを集めた。西田も集中していた。19−20の場面ではノータッチエースを決めた。
 西田が連続で得点を決め、24−23とマッチポイントを奪った。中根が相手のスパイクのコースにうまく入っていた。しかし、サーブレシーブの乱れから2点を取り返された。それでも、金丸がブロックで相手にプレッシャーをかけて2度目のマッチポイント。あと1点が遠かった。西田のスパイクがエンドラインを割った。最後は連続で3点を奪われて26−28。勝負の行方は第5セットに持ち越された。

 文字通り、運命の第5セット。今シーズンのすべてが15点で決まる。ジェイテクトSTINGSに、第4セットを失ったダメージはなかった。
 カジースキのフェイントで先制。藤中の好レシーブでつないだボールを西田が決めた。カジースキのブロックで3連続得点。完全に主導権を握った。チャレンジが成功して、相手の得点がノーカウントになった。チャンスを逃さなかった。本間のハイセットを西田が決めて4−1。西田がサーブで崩し、ネット際で饒が押し込んでブレイク。5−1となったところで、パナソニックが1回目のタイムアウトを要求した。
 西田、藤中のスパイクがアウトになり、7−5と2点差に詰め寄られた。金丸に代わって伏見がコートに入る。藤中のスパイクがブロックされて1点差となったが、ここから西田がエンジン全開。2本連続でスパイクをたたき込んだ。相手のスパイクがアウト。伏見のブロックで4連続得点を奪った。
 優勝が見えた。しかし、ジェイテクトSTINGSは慌てない。この試合を通じて、チームは大きく成長した。伏見が落ち着いて速攻を決めた。テンションが上がった。ヒリヒリする展開が続いた。カジースキが気迫のこもったスパイクを突き刺した。伏見がサーブで相手を崩した。
 14−10。チャンピオンシップポイント。伏見のサーブが相手のエンドライン近くに落ちた。判定はアウト。高橋監督がすかさずチャレンジを要求する。しばしの沈黙――。モニターに映し出されたボールがライン上に落ちていた。この瞬間、ジェイテクトSTINGSの日本一が決まった。

 1部に昇格して7年目。1年目は最下位からのスタートだった。徐々に順位を上げ、2016/17シーズンは3位と躍進。翌2017/18シーズン、キラ星の如き若き才能が現れる。西田有志だ。
 高橋監督が就任した2018/19シーズンは7位と低迷したが、今シーズン、チームは生まれ変わった。カジースキ、本間が復帰。伏見、饒が新たに加わった。既存の選手に融合し、チームは文字通り「ONE」になった。
「普段の練習でやっていることを試合で出す。それを大事にしてきました。簡単なように見えて、とても難しい。でも、それが自分たちのバレーにつながるんだと思います。練習でできていたいいプレーをいかに出せるか。それが実を結んだんだと思います」
 試合後の会見で、高橋監督はこう振り返った。悲願の日本一だ。しかし、大事なのはこれから。さらに強いチームへと成長を遂げるために――。ジェイテクトSTINGSの新たな歴史が幕を開けた。

高橋慎治監督

厳しい試合になることは予想していましたが、どんな状況になっても選手たちが耐え、我慢強くプレーした結果がフルセットの勝利に、そして初優勝につながったと思います。シーズンを通して苦しい状況を何度も乗り越え、チームとして大きく成長しました。ただし、大切なのはこのあとです。この優勝がたまたまだと言われないように、強いジェイテクトSTINGSを作っていきたい。会場に来られる予定だった方も多いと思いますが、今日は画面越しでも楽しんでいただける試合、レベルの高いプレーを出せたと思います。これからもっと楽しんでいただけるバレーができるように、自分たちももっと強くなっていきます。応援ありがとうございました。

本間隆太

タフなゲームになりましたが、若い選手が躍動してくれて、キャプテンとして頼もしく見ていました。この試合を通して、若い選手が成長してくれたと思います。優勝することができて、本当にうれしいです。第1セットはお互いに探り合いというか、決まってもワーッという声援がなく少し変な感覚はありました。ただ、やることに変わりはありません。自分たちで決めた役割をしっかり果たせたから、勝つことができたと思っています。今、愛知に帰るのがすごく楽しみです。たくさんの方々に会って、「長いVリーグ期間中、支えてくれてありがとうございました」と伝えたい。ただ、これからも常勝チームを作っていかなければいけないので、ファンの皆様には引き続きサポートをお願いしたいと思います。

西田有志

人生の中でこんなに大きなタイトルを取るのは初めてだし、このチームで勝ちたいという一心で頑張りました。やり遂げた、という気持ちが試合後の涙に表れていたのだと思います。第4セットの終盤は2回連続でミスをして、それが失セットの原因になりました。正直、「何をやっているんだ」と自分自身にムカついていた。そんな中でもチームの皆さんが声をかけてくれて、一人にならない状態を作ってくれた。そのおかげで、第5セットに入るときはうまく気持ちを切り替えられたと思います。ファンの皆さんにはありがとうという気持ちです。支えてもらっていることに結果で応えるのが自分たちの仕事だし、こうしていい形で終わることができて、心の底からありがとうと伝えたいと思います。

スポーツライター 岩本勝暁のココ!

チームを一つにまとめた本間。彼の存在なくして優勝は語れない

紛れもなく、ジェイテクトSTINGSは今シーズンの主役だった。バレーボールの楽しさ、Vリーグの魅力を存分に伝えた。優勝の要因は一つではない。中でも、存在感を発揮したのが2年ぶりにチームに復帰した本間だ。新主将の存在なくして、この結果はなかったと言っても過言ではないだろう。プレーだけでなく、声でもチームを引っ張った。今日の試合もそうだ。第1セットを失ったあとも、ベンチでチームを鼓舞したという。「第1セットを取られたけど、本間主将の『多くても5セットしかない』という言葉で吹っ切れました」。こう話したのは西田だ。本間は「特別なことをしている感覚はないけど、昨年、フランスでたくさんのことを学びました。それを言葉で表すことはできないけど、ここまでついてきてくれたチームメイトに感謝しています」と振り返っている。チームを一つにまとめたコート上の指揮官がいる限り、ジェイテクトSTINGSの黄金時代はまだまだ続きそうだ。

【スポーツライター 岩本勝暁】

1972年生まれ。大阪府出身。2002年にフリーランスのスポーツライターとなり、主にバレーボール、ビーチバレーボール、サッカー、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ五輪から2012年ロンドン五輪まで3大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。

詳細
対戦カード ジェイテクトSTINGS VS パナソニックパンサーズ
第1セット 17 - 25
第2セット 25 - 22
第3セット 25 - 22
第4セット 26 - 28
第5セット 15 - 10
日付 2020年2月29日(土)
試合 Vリーグ ファイナル
場所 高崎アリーナ
メンバー 藤中、金丸、饒、カジースキ、西田、中根 L本間
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